2023年9月末日。老舗フォトスタジオ森白汀(もりはくてい)のショーウインドウに飾られた写真は、人生の幸せや喜びを滲ませながら街の一角を彩っていた。世代を越えて親しまれてきた“まちの写真館”は、同年10月に移転した。現在は早岐3丁目に新スタジオを構え、令和の時代に合わせたサービスや取り組みを行っている。
わたしは今回特別な縁をいただき、アーケード店での最終営業のようすや3代にわたる歴史、新店舗に向けた社長の想いを記録させてもらえる機会を得た。
あなたが記事を読み終える頃には、きっと家族写真を撮りたくなるかもしれない。
老舗写真館、まちなか営業のラストデイ
成人式のとき、家族写真を森白汀で撮ってもらった。父と母は離婚していたので、父とわたし、妹2人での撮影だった。
とはいえ、母方の祖父母とはずっと仲が良かったので、わたしの振袖はかつて祖母が着ていた淡黄色のシンプルなものだった。これに朱色の亀甲紋様があしらわれたショールを羽織った。
スタジオ1階の貸衣装スペースを見て「ミントグリーンやブルーも可愛いな…」と思わなくもなかったが、白いフワフワよりも断然しっくりきていたし、何より大好きな祖母が嬉しそうにしていたので愛着が湧いたのだった。
いざ撮影に入ったはいいものの、父がシャッターを切られる毎に表情が固まってしまいどうしようもない。担当してくれたカメラマンさんや妹たちと一緒に「リラックス!がんばれ!」と小声でエールを送りながらなんとか終えた。真冬だったのに、撮影が終わったころにはみんな汗だくだった。
また、面接の30分前に証明写真を撮りに駆け込んだこともある。ポチ袋よりも小さな封筒に入っていた3cm×4cmのわたしは、まるで偉業を成し遂げたかのような立派さで思わず笑ってしまった。その場で糊付けして面接会場へダッシュし、汗だくながらも採用してもらえた。汗なくしては語れない、わたしの森白汀での記憶だ。
そんな思い出深いフォトスタジオが新しい門出を迎えるという。教えてくれたのは、森白汀の社長夫人・内海梨恵子さん。梨恵子さんとは、はじめX(旧Twitter)を通じて知り合った。
梨恵子さんはバリキャリの経営者(株式会社ヒューマングループの社長)だが、ときどき好きなアニメや美味しいグルメについて語ったりとキュートな一面も持っているのだ。
「85周年の節目にぜひ記録として残してほしい」と、アーケードでの営業最終日にわたしを招待してくれたのだ。
そして当日、閉店間際のフォトスタジオにて。
梨恵子さんは緊張する面持ちで、夫で3代目社長・内海暢邦(のぶくに)さんのカメラのシャッターを切ろうとしていた。目の前には、暢邦さんとそのお母様がいた。
暢邦さんのお母さんは、常務として長年スタジオを支えてきた。その感謝を込めた一枚を暢邦さんが撮影した後のタイミングで「親子で撮りましょうよ!」と梨恵子さんから提案があったのだ。
「いや、俺はいいよ」と暢邦さんは言いつつも、「じゃあ、このカメラでお願い。操作方法は……」とレクチャー。梨恵子さんのカメラの前に建つ姿は少し照れくさそう。
暢邦さんのお母さんに気持ちを伺うと、「まずはお疲れさま。よくここまで立派に続けてくれたなあと感謝しています。これからも楽しみです」と一言。守り続けてきたスタジオを次世代に託す前向きな想いが伝わってきた。
こうして、昭和49年から営業してきたアーケード店での最後の撮影は終始和やかに行われた。
パシャリ!
撮影後、せっかくなのでと四階建てのビルを案内してもらえることに。染み込んだ70年分の歴史を感じながら、ありがたく巡らせてもらった。
なにせ18年前の記憶なので、雰囲気や印象深い出来事は覚えていても各フロアの造りなど具体的なことまでは思い出せなかったが、建物内のあちこちから昭和から平成(それ以前の時代のものもあったかもしれない…)が肌で感じられた。
最終日のビルで見つけた不思議な光景
ビルの屋上にて。「ときどきここに来て考え事をすることもありました」と内海社長。ここで色んな四季を、ご自身の気持ちの移ろいとともに感じたことだろう。この日は十八親和銀行本店の真上に輝く月がとてもきれいだった。ここからの夜の眺めはきっともう最後。
灯りが透けたアーケードの屋根も、地元民のわたしにとっては見慣れない不思議な光景だった。見せてくれてとても有難かった!
まちの写真館・森白汀は、またひとつ大きな節目を迎えたのだった。
次の記事では、昭和、平成、令和に繋がる親子3代でシャッターを切ってきた森白汀の歴史や3代目の想いについて記していく。
■後編はこちら■
【店舗情報】
森白汀
Photo Studio MORI HAKUTEI
〒859-3215 長崎県佐世保市早岐3-11-11-2F
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/morihakutei
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