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寅になりたかった男 第二回 自分だけの推しマドンナを探せ〜寅次郎の恋愛遍歴を徹底分析〜


寅になりたかった男 タイトル

今から10年ほど前、「男はつらいよ」という映画に出会った。見れば見るほど、歳を重ねれば重ねるほど深みと面白みが増していく不思議な映画だ。私の中では映画というよりも、人生哲学や生きる上での指針になっている。

寅さんに心を奪われてからというもの、1日のルーティンに男はつらいよの視聴が組み込まれていて、毎日15分〜30分は必ず見ている。寅さんでしか得られない栄養があるのだ。毎日視聴していると粗筋がわかってくるので"ながら"で見ることも多くなる。例えば、読書をしながら、飲酒しながら、筋トレしながら、といった具合に何かの片手間で見る。お気に入りのシーンになったら手を止めて見る。何百回も見ているはずなのに、その時々の心境によって感じ方が違うから不思議だ。

 

最近では入浴中に見る”風呂寅”にハマっている。普段は15分程の視聴だが、のめり込むと大変だ。無意識にフル尺(90分弱)を見ると妻が何事かと慌てて声をかけにくる。その度に呆れ顔をされていたが、最近では「また、風呂寅か」と思われているのか声かけがなくなった。本当に何かあった時を考えると少し怖い気もする。

 

さて、今回のお話は寅さんを語る上で欠かせないマドンナについて。


劇中に咲く華

寅になりたかった男 マドンナ

日本全国を渡り歩く“フーテンの寅”こと、車寅次郎。彼の人間味あふれるキャラクターが大きな魅力の人情喜劇だが、寅さんが恋する“マドンナ”が華を添えていることも忘れてはならない。全48作、複数回出演のマドンナもいるが皆別役(リリーを除く)だ。寅さんがマドンナと出会い、恋したのちに失恋するという一連の予定調和には謎の中毒性がある。ストーリーが進行する上でマドンナはとても重要な存在で、恋する過程でエピソードが進行していく。もう1人の主人公と言っても過言ではない。マドンナの役割として大きく下記が挙げられる。

 

・寅さんの感情変化

マドンナとの関係を通じて、寅さんの人間性や優しさ、弱さが描かれて物語に深みが生まれる。マドンナへの慈愛に満ちた眼差しや表情の機微を見ているだけで心がポカポカする。

 

・シチュエーションの多様さ

各作品のマドンナはそれぞれ異なる背景や個性を持っている。未亡人や離別、夫が行方不明等、色々な理由を抱えている。マドンナの境遇が異なることで、新しいテーマや視点が生まれ飽きさせない。予定調和の中にも新鮮さを感じるのは、シリーズ全体に多様性があるからだと思う。

 

・旅の動機

全国を風のように旅する寅さん。帰郷するも旅に出るもマドンナとの恋沙汰に大きく左右される。最後は必ず失恋し柴又を去るのだが、これも予定調和で安心感すらある。行商先の素晴らしいロケーションにも注目だ。


私の推しを語らせてくれ

寅さんといえばマドンナ。マドンナといえば寅さんということで、筆者の特権を濫用して私の推しマドンナを語らせてほしい。全作品を通算で100ループ以上視聴していて、その時々に様々なマドンナに移り気してきたが「結局のところ、やっぱりマドンナはこの人だよなあ」という方がいる。そのマドンナの名は大原麗子さんだ。

美しさと可愛らしさが同居する容姿。少し鼻にかかった声。2作のマドンナを務めているが、作品のいたるところで大原麗子だからこそ活きる小悪魔的演技が光る。特に22作目「噂の寅次郎」の演技は神がかっている。


とらやのアルバイトとして働くことになった早苗(マドンナ)。ある日、朝寝した寅さんが2階から降りると弁当を食べている早苗の姿。淹れてもらったお茶を飲みながら、弁当を覗き込もうとする寅さん。すると恥ずかしそうに弁当を隠し「見ないで…」と言う。夫と別居中という後ろめたさと、抱え込んだ悲壮感が出てこの上なく良い。そして、離婚が成立した日も気丈に振る舞っていたが、気持ちの糸が切れたのか涙目で「寅さん、あたし泣きそう…」と見つめる。極めつきは、帰り際に「わたし、寅さん好きよ」と言うシーン。誤解を生むような大胆な振る舞いだが、これも大原麗子の可憐さゆえに許されてしまう魅力と言えるだろう。これらの演技は他のマドンナたちにやらせても絶対に醸し出せない空気感だ。まさに大原麗子だからこそ活きる演技。

 

その美貌から繰り出す「見ないで…」「寅さん、あたし泣きそう…」「わたし、寅さん好きよ」はマニアの間で魔性の三段活用と呼ばれている(たぶん)


フラれ方の流儀

寅になりたかった男 失恋

寅さんが恋したマドンナは数知れず。そして恋した数だけ失恋する。

自身のおさらいも兼ねて寅さんの恋愛指向をデータ(※初回作〜48作目まで)を基に紐解いてみよう。私が長年コツコツまとめたデータなので多少の誤差はご容赦いただきたい。

 

・出会ったマドンナの人数 

45人(リリー重複出演分除く)

マドンナとの出会いは旅先が圧倒的に多い。困っている女性を助けたりして自然な形で接点が生まれる。寅さんにハマってからというもの、旅先では人に親切するよう心がけている。

 

・マドンナの平均年齢

34.1歳

最年少:榊原 るみ(20歳) 男はつらいよ 奮闘篇(第7作)

最年長:浅丘 ルリ子(55歳) 男はつらいよ 寅次郎紅の花(第48作)

恋愛対象年齢は20〜55歳と幅広いが、寅さんの年齢からすると比較的若い女性が好みのようだ。これは寅さんに同意する。

 

・失恋の内訳

フラれる:21人(46.7%)

自ら身を引く:11人(24.4%)

その他:16人(35.5%) ※キューピッド回、特異回等

純粋にフラれることが約半数だが、身を引いた数も多い。もう一押しすれば恋が実るような場面でも煮え切らない寅さんに最初は歯痒さを感じていたが、視聴回数を重ねると引き際の美学がカッコよく思えてくる。寅さんのように背中で語れる男になりたいものである。


・失恋した時の慰められ方

寅さんの恋が終わった時、ほとんどのシーンに妹のさくらがいて傷心する兄に寄り添い優しい言葉をかけてくれる。寅さんの表情を見ているとさくらの言葉が心の傷口にじんわりと染み込んでいくのがわかる。ガサツで風来坊の兄と献身的で優しい妹。さくらは寅さんに欠かせない本物の癒し系なのだ。

 

・本編開始から失恋するまでの平均時間

87分

上映時間の平均が102分なので終盤に失恋していることがわかる。これも予定調和で、物語終盤に寅さんが柴又を飛び出し、その後エンディングを迎える構成になっている。寅さんの失恋とマドンナの願望成就はセットになるので、そそくさと逃げるように旅立つのではなく、マドンナの願望成就にあたってのコメントをいくつか残し、惜しまれながら旅に出る。

 

では、フラれてばかりいる寅さんには恋愛のセンスがないのか?

誰とでも流暢に会話することができるし、人たらしで人身掌握術(自覚はないが)にも長けている。お得意の口上のようにスラスラと口説き文句でも出ればいいが、恋愛感情を持ってしまうとモジモジして口下手になってしまう。

 

前述でも述べたように、不思議なのは稀に事がうまく運び、成就しそうなのに身を引く事である。惚れているのに身を引く理由はわからないが「渡世人である自分とあの人が本気で付き合っちゃいけない」という思いや、結婚という未知のものに対しての畏れがあるのではないか。浮雲のような暮らしから、所帯を持つことの束縛感や責任感から逃げたくなるのも当然のことだが、時には恋敵に花を持たせる事だってある。理屈ではなく、相手の幸せを純粋に思からこそフラれるプロなのである。

テーマ曲にも「男というものつらいもの 顔で笑って 顔で笑って腹で泣く 腹で泣く」という一節があるが、寅さんが失恋する時に見せる背中はグッとくるものがある。


いざ!推しマドンナを探してみよう

寅になりたかった男 推しを探そう

各作品のマドンナはそれぞれ異なる魅力を持っている。そこで推しを探す上でのポイントをいくつかご紹介します。

 

・作品を楽しむ

まず作品そのものを楽しんでみよう。一話完結型なので、どこから見てもOK!色々なエピソードを見ることでマドンナの背景や個性を発見できます。国民的映画ということもあり、NETFLIXをはじめAmazon PrimeやHuluでも配信されています。

 

・寅さんに感情移入してみる

自分が寅さんになった気分で見てみよう。感情移入すれば疑似恋愛を楽しめます。最後フラれるけど。

 

・演技力に注目する

マドンナの演技に注目してみよう。表情や間だけで感情を伝える女優さんってやっぱりすごい。まず好きなタイプから作品を選ぶのも良いと思います。

 

十人十色のマドンナがいますが、表情や姿勢に芯の強さが出ていて心惹かれます。

さあ、寅さんを観て推しマドンナを探してみよう!



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