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寅になりたかった男 第一回 結構毛だらけ猫灰だらけ!魂の口上パンチライン


寅になりたかった男 タイトル

わたくし、生まれも育ちも鹿児島の北端。名をガジロウと発します。映画「男はつらいよ」好きが高じ、拙文ながら本記事を執筆させていただくこと、ガチ勢冥利に尽きる光栄であります。まず、寅さんを好きになったキッカケを簡単に。

 

27歳の頃、たまたまTV放送されていた「男はつらいよ」を無心で見ていると「困ったことがあったらな、風に向かって俺の名前を呼べ。おじさん、どっからでも飛んできてやるから」というセリフを聞き、なんとも言えない安心感を覚えた。理由はわからないが、当時の心理状態にその言葉がピッタリ収まったんだと思う。その日以来、ハマりにハマった。 

 

私が寅さんの存在を知ったのは小学6年生の夏。今よりずっと前。1996年に「寅さん」こと渥美清氏が逝去した時、楽しみにしていた日曜洋画劇場の「スタンド・バイ・ミー」が追悼番組に差し代わり、深く落胆した憶えがある。当時は四角い顔のおじさんより、少年4人の冒険活劇の方が断然見たかった。

 

そんな男も大きくなると頭の中は、「寅さん」でいっぱい。自身の挙式で寅さんのコスプレで臨もうとするも、親族から本気で止められたほどと言えば理解してもらえるだろうか?今では私の人生哲学や指針になっていて、記事まで執筆しているのだから人生わからないものである。 

 

見れば見るほど、歳を重ねれば重ねるほど深みと面白みが増していく寅さんの魅力を少しずつご紹介していきます。


聞こえてくるテキ屋の口上

寅になりたかった男 テキヤ

"口上"というものをご存知だろうか。簡単に言えば日本に昔からある言葉遊びで、古くは万葉集にもリズミカルに韻を踏んだ和歌が多くある。

 

昭和の時代、お祭りや観光地には必ずと言っていいほど威勢のいい口上が聞こえていた。テキ屋さんは皆、口上が巧かった。巧みな口上によって誘蛾灯に引き寄せられるように集まった子供たち。そこで当たりの出ないクジを引き、ハズレ(アメリカンクラッカーのパチモノ)が出ると「おお!それサルのキンターーーマァ↑坊や!それ当たりや!おめでとう!」と言われたことを鮮明に覚えている。当たりのゲームギアが欲しかったのだが、そんな威勢で言われるとハズレを引いたのに当たりが出た気分になる。その後、10回ほど引いたが全て色違いのサルのキンタマだった。当たりが10連続出るはずがないと子供心に察知したが、当時の私は口上によって一時的な催眠にかかっていたと思う。


口上の名人「寅さん」こと渥美清 

寅になりたかった男 MC

とまあ懐古はこの辺にして、近年盛り上がりを見せているラップのMCバトルを見ていると、あのサルのキンタマを思い出す。高いライミングスキルとフロウで相手を叩きのめすR-指定も凄いが、私が知っている史上最強の口上の名人は「寅さん」こと渥美清氏だと思う。10代〜20代の若い世代は知らない方も多いだろうが、日本を代表する俳優である。そんな寅さんの口上をいくつか紹介しよう。


口上パンチライン

・結構毛だらけ猫灰だらけ、お尻の周りはクソだらけ

商売の時だけでなく日常会話でも「大変結構だ」という意味で、頻繁に使っているお気に入りの口上だ。前半の「結構毛だらけ猫灰だらけ」は、古くから落語で使われる言い回しだが、後半で笑いを加えるところにセンスを感じる。韻を踏んでいるのは勿論、それぞれの単語のインパクトが凄い。さらに同じ音数を繰り返すことで、テンポとインパクトを倍増させている。

 

・四谷赤坂六本木、チャラチャラ流れるお茶の水、粋な姉ちゃん立小便

水の流れを表す言葉として「ちゃらちゃら」よりも「さらさら」の方が一般的だが、次の「お茶(ちゃ)の水」にかかってこない。同じく「ネエちゃん」も「ネエさん」では、せっかくの「ちゃ」が生きてこない。実に緻密に計算されている。

 

・やけのやんぱち日焼けの茄子、色が黒くて食いつきたいが、あたしゃ入れ歯で歯が立たないよ

自棄(やけ)になるという語呂合わせと思いきや、かなり深い意味がある。詳細は割愛するが、口上の中に現代人への警鐘が含まれているように思えてならない。


劇中よく聞く定番の口上を挙げたが、他にもレパートリーが多数ある。客層や商品に合わせて言い回しを即興で組み立てているのだ。まさにプロフェッショナルである。寅さんの声色と心地よい抑揚も相まって、次々と紡がれる名調子は耳に心地よい。もはや口上ではなくフロウと言っていいだろう。その口上は形を変え、現代ではMCバトルで繰り広げられるライムとして息づいていると思う。即興で韻を踏みながらディスをかまし合う場に、寅さんが参加する場面を見てみたい。破壊力がありながら聴衆をクスリとさせるパンチラインを生み出すことだろう。


ここで聴ける「寅さん」の声

ちなみに「男はつらいよ」のテーマをサンプリングした曲もある。「えらい兄貴になりたくて」のループはグッとくるものがある。全体的に兄から妹へのメッセージ色が強い印象だ。余談だが映画を見始めてからというもの、妹を無意識にサクラと呼ぶことが多くなった(当然無視されるが)


やっぱり聞くなら本編を

実際の口上とテーマ曲を聴きたい方は是非本編を。LEAP氏の曲冒頭の台詞も聞けます。

 

次回、推しマドンナの話。


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